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物語の創造

 タロット・カードの展開を読む(reading)ことは、展開されたカードを通して、クライエント(質問者)とリーダー(助言者)が協力して、そこに何かの物語を創造していくことだと思います。心理療法の中に“箱庭療法”というのがありますが、それと似ているところがあると思います。


 箱庭療法というのは「ロンドンの小児科医ローエンフェルトが子どものための心理療法の一手法として考案し、1929年に最初に発表した。それを、ユング派の分析家、ドラ・カルフが発展せしめ、Sand Play Therapy(砂遊び療法)として確立した。」ものだそうです(『イメージの心理学』河合隼雄著 青土社 122ページ)。河合隼雄さんはそれを日本に紹介し、箱庭療法と名づけました。やり方は、箱に砂を入れ、たくさんのミニチュアを用意して、患者にそれで何でも好きなものを作らせるのです。そしてそれを続けていくことで、患者の作る箱庭に変化が表れてきて、それが心理的な病気の治療につながっていく場合があるというものです。

 

 

(日本カラーアートセラピー協会(CAT)のYouTubeチャンネルより転載)


 河合隼雄さんは箱庭療法に関連して「心理療法の根本は自己治療、つまり、クライエントがそれ自身の力で治ることである、と筆者は考えている。と言っても、クライエント本人の意思の力によって治るのではない。クライエントの無意識内に潜在する自己治癒力を活性化することが必要であり、そのためには、治療者や箱庭が必要となってくる。」(同書126ページ)とおっしゃっています。


 河合さんは、箱庭は「自由にして保護された空間」を提供するものだと言っています。つまり、箱庭というシステムによって、物語の創造のための枠組みが提供される、ということだと思います。そういう自由な枠組みが提供されることで、潜在意識がそこに投影され、それを物語として意識に上らせることで、問題の解決につながっていくのだと思います。河合さんは「箱庭を置くことは、すなわち創造活動であり、それが癒しに通じるのである。」(同書128ページ)と述べています。


 これはタロット・リーディングについても同じようなことが言えるのではないでしょうか。裏向きになったカードの中から、クライエントが自由に選んだカードを一定のルールに従って展開させていくと、そこに何か物語が浮かび上がって来ます。それをどう読むか、と言うことの中に、クライエントとリーダーの無意識が反映され、問題解決のヒントが提供されているのだと思います。


 さらに、リーディングが上手く行った場合、クライエントとリーダーの潜在意識は通じ合い、ある程度融合しているのではないでしょうか。そして、融合された潜在意識が目の前に展開されているカードの上に投影されるのだと思います。


 なので、タロット・リーディングはクライエントとリーダーとの共同作業だと思います。そこにタロット・カードという道具立てがあり、カードを展開するためのルールがあり、ある問題に直面しているクライエントとカードについての知識や経験を有するリーダーの間でコミュニケーションが行われる。そういう中から問題の解決につながるような物語が創造されていくのだろうと思います。


 イシス学院でタロット・リーディングについて大沼忠弘先生から教わった時には、「同じ問題について何度もリーディングしてはいけない。」というように教わりました。同じ問題について自分の気に入ったカードの展開になるまで何度もリーディングを繰り返すのはよくない、ということだと思います。しかし私としては、同じ問題について時間を置いて、何度かリーディングしてみることもありなのではないか、と思っています。


 クライエント自身の心の成長、クライエントとリーダーとの関係の変化、そういうものを反映して、タロット・カードのリーディングも時間を経て当然変化していくだろうと思います。箱庭療法において、治療者と患者との間で何度も箱庭を作って治療を進めていくように、タロット・リーディングにおいても同じ問題について時を変えて何度かリーディングしてみてもいいのではないかと思います。


 それによってクライエントの心の変化やリーダーとの関係の変化を反映して、新たなカードの展開の中に新たな物語を紡いでいくことができ、問題解決に向けた違う視点からのヒントが得られるのではないでしょうか。それは状況の変化に応じた、より深く一段高い視点からの解決策になるのではないでしょうか。


 箱庭療法では患者がどういう個々の物を選んだか、あるいはその個々の物がどんな意味を持つか、ということよりも、全体としてそこにどんな物語が展開されるか、ということや、その物語が何を語ろうとしているのか、ということが重要だと思います。


 河合隼雄さんは『物語を生きる』(小学館)という本の中で「そもそも心理療法というのは、来談された人が自分にふさわしい物語をつくりあげるのを援助する仕事だ、という言い方も可能なように思えてくる。


 たとえば、ノイローゼ症状に悩んでいる人にとって、その症状は自分の物語に組み込めないものと言っていいのではないだろうか。たとえば不安神経症の人は、その不安が、なぜどこからくるのかわからない故に悩んでいる。その不安を自分の物語のなかにいれて、納得がいくように語ることができない。そこで、それを可能にするためには、いろいろなことを調べねばならない。


 自分の過去や自分の現在の状況、これまで意識することのなかった心のはたらき、それらを調べているうちに、新しい発見があり、新しい視点が獲得される。その上で、全体をなるほどと見渡すことができ、自分の人生を“物語る”ことが可能となる。そのときには、その症状は消え去っているはずである。」と述べています(同書11ページ)。


 自分の物語を紡ぎ出し、その意味を知ることは、精神的病の治療に役立つだけでなく、自分の人生をよりよく生きていくことの中でとても大切なことに思えます。河合隼雄さんは「人間はその生涯にわたって、一人ひとり固有の“物語”を生きているのだ」と述べています。


 そして「物語の特性のなかで、まず強調したいのは、その“関係づける”はたらきであろう。あるいは、何かを“関係づける”意図から物語が生まれてくる、と言ってもよい」(同書12ページ)と述べています。


 自分の物語を作るには、自分と他者や環境との間の関係性を発見することが出発点になります。さらに「物語が関係づけるはたらきをもっている点で、自と他との関係づけに加えて、自分の内部における関係づけのことも忘れてはならない。」(同16ページ)「その関係の在り方について述べるときに、“物語”が生まれてくる、と思われる」(同書22ページ)と述べています。


 つまり、自分の物語を紡ぐためには、自分と外界との関係を調べていくだけでなく、自分の内面を探ってそこにどんな関係が見つかるかを探っていくことも大事なのです。


 ただし、その関係性を探る作業において、単に表面的な世界のみを見ているのでは、自分と世界、あるいは自分の内面の奥底にある真の関係性が見えてこないのではないでしょうか。自分の限界を突破して、その背後にある世界に到達できたとき、真の関係性が見えてくるのではないでしょうか。


 その点に関して河合さんは「人間の意志や意図を越えて、滔々と流れ続ける“もの”の勢い、方向を感じとること、これが大切である。しかし人間はしばしばそのことを忘れ、この“ものの流れ”に身をまかせるとき、思いがけないことが可能になる。」(235ページ)と言っています。それが一体何なのか、それを探求していきたいと思っています。

 
 
 

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