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アストロロジーと神話

 黄道12宮の最初に来るのは牡羊座です。1年の内で昼と夜の長さが同じになるのが春分と秋分ですが、アストロロジーではこのうちの春分の時の太陽の位置を牡羊座の0度と決めています(トロピカル方式。他にサイデリアル方式というのもあります)。今年2024年だとそれは3月20日の12時6分に起こりました(この時、地球が太陽の周りを回る公転軌道上で、1年のうちで地球上の昼と夜の長さがちょうど等しくなる春分点の位置に到達した)。ただし、その時に天空上で太陽の背後にあった星座は牡羊座ではなくて魚座でした。古代のバビロニアで占星術が始まった頃にはこの2つ(サインの牡羊座の0度と実際の星座上の位置)は一致していたと考えられますが、その後、地軸の歳差運動によって春分点が黄道上を移動していったことにより、現在ではこうしたズレが生じています。

 

 最初のサインである牡羊座はいわば赤ん坊のような魂です。まだ人生の経験がなく、生命のエネルギーに満ち溢れています。今、目の前にあることが全てであり、そこに向かって好奇心で突進していきます。危険ということは考えません。何にも染まっていない純粋な心で世界に向き合っています。

 

 次に来るのが牡牛座です。これは幼児の魂です。皮膚感覚をはじめとして、五感が発達していきます。ものに触れてやわらかいとか硬いという感触を得たり、暖かいとか冷たいということを感じます。目で物を見、耳で音を聞き、鼻で臭いをかぎ、舌で味を感じます。五感を通して世界を感じとっていきます。次は双子座です。知性が芽生え、いろいろな物事に興味を抱き、何にでも首をつっこもうとします。

 

 という風に人間の魂は次第に成長していきます。そうやって人生の最期に到達するサインが黄道12宮の最期に来る魚座です。ここで人は今生の生を終えて次のステージに向けて旅立って行くのです。というようにサインを順番に見ていくと、サインの配置は実にうまくできていると感じます。一人の人間の魂の成長を順番に見ていっている感じです。

 

 サインの位置はまた1年の季節とも関係します。1年という周期で太陽は牡羊座の0度である春分からスタートし、夏至のころは蟹座、秋分は天秤座、冬は山羊座の位置にあります。この順番やそこにある各サインの性質は季節の変化にマッチしているように思えます。

 

 さて、各サインにはその星座にまつわるギリシャ神話があり、各サインの意味を理解するのに役立ちます。例えば牡羊座は別名、白羊宮と呼ばれていますが、それについては次のようなギリシャ神話があります。

 

 アタマス王の子供であるプリクソスとヘレの兄妹は義母のたくらみで生贄にされそうになりますが、オリンポスの最高神ゼウスは黄金の毛と翼を持つ羊を遣わして二人を助けます。ただし、この羊は性急な性格だったので、兄妹を救出して空を駆けている途中で妹の方を海に落としてしまいます。ここに牡羊座の持つ性急な性質が表れています。しかし兄のプリクソスの方は無事にコルキスという土地に到着します。後に、英雄イアソンがコルキス王の娘メディアの助けを借りて、この羊の金の皮を手に入れるために、アルゴー号という船で冒険の旅にでかけ、多くの危険な出来事に遭遇した後、羊の毛を手に入れる、というのが牡羊座にまつわるギリシャ神話です。

 

 星座を見るアプリで牡羊座を探すと、現在の時期(10月初旬)において牡羊座は夕方6時ころから東北東の空を登り始めます。牡羊座で最も明るい恒星(α星)は2等星でハマル(Hamal)という名前がついています。ハマルとはアラビア語で「羊」を意味するのだそうです。

 

 牡羊座の星を線でつないでいくと→という形の先っぽの矢じりの下半分が取り去られたような形をしています。なぜこれが牡羊を表すのか?その形からだけではとても想像できません。なぜ、古代のバビロニア人やギリシャ人は無数にある星の中から、ある特定の星を選んでそこに神や動物の形をあてはめ、さらにはそれに因んだ神話を生み出すことができたのでしょう?しかもそうして生み出された神話がアストロロジー上のサインに符号したものになっているのはなぜでしょうか?

 

 黄道12宮上の各サインがそれが配置された位置にあり、サインに相応しいギリシャ神話が存在しているのはとても不思議なことです。偶然選び取られた形に、適当に想像力を働かせて物語を作ったら、それが黄道上でそのサインに相応しい場所にそのサインに相応しい神話を伴って現れた、というのは到底偶然とは思えません。

 

 それには、ユングの説く潜在意識や普遍的無意識、あるいは元型といったことが関係していると思います。アストロロジーは古代バビロニアで発生したものだと言われていますが、バビロニアの羊飼いが羊の番をしながら山の中で夜空の星を眺めている時には、特別な意識状態になったのではないでしょうか。そうした意識状態で夜空を眺めると、星の配置にある形が見出され、さらにその形に付随した物語も心に浮かんで来たのではないでしょうか。それは特別な意識状態がもたらした人間の心の奥に潜んでいる普遍的無意識が投影されたものだったのではないでしょうか。それはタロット・カードの大アルカナでXVIII月のカードの中に示されている池の底から浮かび上がって来る得体のしれない生き物のことだと思います。


  静かな瞑想状態にある時、心は深層意識とつながります。すると深層意識の底に普段は隠れているものが意識の表面に浮かび上がって来ることがあるのだと思います。そこから意味を持った形が見えてきて、その形に付随した神話が生まれ、物語が展開していくのではないでしょうか。それは普遍的無意識にある私たちの元型を反映したものなので、アストロロジーにおいてそのサインに相応しい物語が展開されるのではないでしょうか。

 

 映画スター・ウォーズは監督のジョージ・ルーカスが大学でジョゼフ・キャンベル教授の神話学という講義を聴いて感激し、キャンベルの説く神話における英雄の物語の構造を踏まえてストーリーを展開した映画だそうです。

 

 神話に出てくる英雄の物語には共通するストーリー展開があり、それは人間が誰しもが持っている普遍的無意識に根差したものなので、この映画が多くの人の共感と感動を呼ぶのだと言われています。

 

 キャンベルが説く多くの英雄神話に共通する構造とは次のようなものです。主人公はあることをきっかけに、非日常の旅に出かけることになります。旅に出るのは主人公が自分の使命(calling)を自覚し、それに対してコミットメント(責任を負った約束)をするからです。

 

 その結果、彼はそれまで住んでいた世界の境界を越えて旅に出発します。その途中、彼は自分を助けてくれるメンター(guardian指導者、助言者)に出会い、彼に助けられたり、有益な助言を受けたりします。一方、目的達成を妨害する悪魔(demon)とも出会い、彼と戦います。そうして主人公は数々の試練(イニシエーション=通過儀礼)を経て成長(transformation 変容)し、遂には旅の目的(姫君を助ける等)を達成して、故郷に帰還します。


 こうした英雄神話は人間にとって本質的な何かを含んでいるので、それを物語として聞くと、子どもから大人まで、それが魂の中にすっと入ってくるのだと思います。それは物語という形式を取ることが大事だと思います。子供が幼いころ寝る前に絵本等を読んでもらって物語を聞くと、それは子供の潜在意識の中に入り込んでいって、その人の人生に影響し続けるでしょう。スター・ウォーズはそうした物語であり、幼いころからそれを見て育った世代にとって、それは現代の神話になっていると思います。映画スター・ウォーズが世界中でヒットしたのは、その物語がこうした英雄神話にもとづくものだったからだと思います。

 

 
 
 

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